2025.07.31
【留学生の今日】留学リポートvol.26!プラハから渡辺 咲耶がお届けします!
Dobry den! ドブリーデン!
プラハ美術工芸大学(UMPRUM)に留学中の渡辺咲耶です。
K.O.V studio(concept object meaning)に所属しています。
私は2セメスターここで過ごしているので、二度目のブログ投稿になります。
今回は、語学力についてと、学期末展覧会(クラウズラ)のことについてフォーカスしたお話ができればいいなと考えています。
前回の投稿では大学での具体的な学びの様子や、スタジオのシステムについて細かく紹介しているので、そちらも読んでいただければ、より留学の様子が伝わるかなと思います。
英語は自分を守ってくれるお守りのようなもの
UMPRUMへの留学を検討している方の中には、語学力について気になっている方が多いのではないのでしょうか。チェコでの公用語はチェコ語なのですが、留学生に対しては英語でのプログラムが提供されています。UMPRUMでの学びは、自身の専門分野を磨くための授業が大部分を占めています。語学留学でないということは、言い換えると、それができる前提で専門の学びが展開されていくということです。ですが不安になる必要はありません。私がここで言いたいことは、今はまだ自信がなくても、自分次第でどんどん上達していけるということです。語学力を理由にアート留学を諦めてほしくはありません。
ここで私の経験を少しお話します。私は、留学前に自分なりに英語学習を進めていたつもりでしたが、実際にヨーロッパに行ってみると、全くといって良いほどコミュニケーションがうまく取れず、最初はもがき、苦しみながらの日々を送っていました。日記を見返していても、「英語をうまく使えるようになりたい」という類の文章がびっしりと書いてありました。悔しいと思った時から毎日欠かさず、できる限りの言語トレーニングをして、学んだことを少しずつアウトプットしていく中で、自身の成長を徐々に感じることができました。実践の場が常にあるので、トレーニングには最適の環境でしたが、逆に逃げ場がないくらい英語漬けの日々で、日本語を聞くと心の底から懐かしい気持ちになることもありました。
また、私は英会話に対する段階的な目標を大まかに決めていました。
1.英語を使えるようになる
2.英語で会話(スモールトーク)ができるようになる
3.英語で友達と深い話・悩み相談ができるようになる
4.英語で自身の作品コンセプトを細かいところまで伝えられるようになる
5.英語で相手を笑わせるジョークを言えるようになる
最後のジョークに関しては絶賛トレーニング中です。
「留学に行くだけでは、英語は上達しない」とよく言われていますが、私はそこに少し付け加えをしたいと思います。「留学に行けば、想像以上にたくさん、英語が上達する環境がある」ということです。当たり前の言葉ですよね。そう。その当たり前が重要なのです。留学先ではみんなが当たり前のようにあなたに英語で話しかけてきます。その環境を自分がどう捉えて、どう活用したいのか、そこを貪欲に考えることが大切なのだと思います。
毎週のスタジオミーティングやプレゼンの際に、最初は“用意された英語を読んでいた”のですが、だんだんと“自分の英語で伝える”ことを重視するようになりました。
自身の作品のコンセプトやテーマなど頭の中で漠然と考えているものを言語化することは難しかったですが、「相手にどう伝えたいか」「自分はそもそも何を言いたいのか」ということを考えることで、自身と向き合うきっかけにもなりました。
こう言ったプロセスを経て、英語とは学ぶ対象ではなく、使うツールであり、怖いものではなく、自身を守ってくれるものであることに気が付きました。そんなお守りのようなものを、できる限り早めに用意して、皆さんには留学に挑んでほしいなと思います。
一人のアーティストとしてのKlauzura
次に、クラウズラのことについてです。スタジオの活動は学期全てを通して、このクラウズラの展覧会に向けて行われます。クラウズラとは先生が介入しない期間のことです。学期末展覧会までの1ヶ月間は通常授業は全てなくなり、スタジオワークに集中します。スタジオにもよりますが、基本的に自分で制作を進め、先生は必要な時にだけ軽くミーティングをしてくれるという感じです。もちろん展覧会づくりも学生が主体となって全て進めていきます。
展覧会の規模はとても大きく、本格的です。設営期間になるとみんなで真夜中まで残って準備を行うこともあります。展示方法に関して、友達と意見の齟齬が生じ、ぶつかる時もありました。そのくらいみんな妥協なく取り組んでおり、単なる“学生の学期末展覧会”という感じではありませんでした。一人のアーティストとしての自覚をみんなそれぞれが持っていて、良い展覧会を作るために全力を尽くしています。
UMPRUMはプラハの中心地に位置しており、展覧会には全世界から観光客の方も多く訪れます。また、アーティスト、雑誌編集者、ギャラリー関係者、キュレーター、建築家、デザイナーなど、様々な路線で活躍しているプロフェッショナルの方も訪れます。作品が気に入ってもらえると、ELLEやVOGUEのカメラマンを担当している方に私の作品をプロジェクトに使いたいという提案がくることもありました。
この展覧会を通して、学生としてではなく、一人のアーティストとして接してもらえることを経験し、自信につながったとともに、作品制作に対する意識も成長していきました。
先生や大学外から招かれたアーティストの方々10人ほどに評価をしてもらいます。
その場で一人ずつから点数が言い渡される形式なのでみんなとても緊張していました。
Heart of Europe, Connect to the World
中央ヨーロッパに位置するチェコ共和国は“ヨーロッパの心臓”と呼ばれていて、多くの周辺国にアクセスしやすい位置にあります。留学期間には、知らない国の歴史や建物、人々を知りたいという思いから、旅に行く時間も大切にしていました。東京に一人で行くこともできなかった私が一人旅で多くの国を回っている姿に、両親は驚いていました。
私自身もまさか自分が一人でヨーロッパを旅するとは思っていませんでしたが、留学とは不思議なもので、普段だったら湧かない力、知らない自分に出会える場でもありました。この旅の経験も自分を大きく成長させてくれました。もちろん友達と旅行する時間も楽しかったですよ!チェコに留学に来た際には、ぜひチェコ国内の別の街や、周辺の国々にも足を運んでみてくださいね。
“知らないを知って、無意識の線引きを無くす”
私は、2つのセメスターを通して、自身の留学目標を明確に定めることが重要だと実感しました。ここに来たばかりの時、わたしは初めての場所での生活に慣れるだけでも多くの時間と労力を費やしました。同時に、ここまで来たのだから、必ず何か、たくさんのものを習得して帰らなければというプレッシャーや、焦りをものすごく感じていました。そんなとき私は、自身の留学達成目標をあらためて見つめ直していました。
“知らないを知って、無意識の線引きを無くす“これが私の大きな留学目標でした。
“知らないを知る”
自分の専門分野である金属だけに固執するのではなく、これまで触れたことのなかった素材や分野に積極的に触れ、興味関心の赴くままに学びを深めました。ガラス、版画、製本、建築、中央ヨーロッパの金属の伝統技法、貝を使った作品制作など「いつかやってみたい」で終わらせてしまっていたようなことに挑戦し、新しいことをたくさん吸収しました。また、作品制作に関して、友達と積極的に対話することも意識していました。スタジオの友達と一緒に作業している時は、隙間時間に作品のコンセプトを共有しあって、相手の考えを聞いたり、自分の考えを共有したりしていました。雑談の中で、インスピレーションを得ることも多くありました。
“無意識の線引きを無くす”
文化、歴史、人々のパーソナリティ、慣習、街並みなど、チェコでの生活は日本での生活と異なる部分が多かったです。ですが、その違いに驚くのではなく、私は適応していきたいと、かなり早い段階から考えていました。週末にはチェコに関する知識を蓄える時間を必ず作っていました。チェコの歴史、政治的なムーブメント、ヨーロッパのアートデザインの歴史を学ぶことで、アートに関する新しい向き合い方を自分なりに見つけ、日本にいた時とは異なるスタイルの作品制作に取り組むことができました。幾重にも重なった日本人としての殻を、いい意味で破ることができた気がします。チェコに染まるというのではなく、日本にいた時に培われた自分なりの表現スタイルと“融合”する作品制作ができるようになった気がします。
また、日常生活でも世界各国から集まった友人と話すことで、自分の中の常識がいい意味でどんどんと覆されていく感覚が留学ならではの経験かなと思います。
プラハの日常に転がっている様々なたからものたち
留学生活は大学の学びだけではありません。帰り道の景色、たくさん通ったギャラリー、友達の笑顔を思い出すカフェ、本を読んでいた公園、トラムの音、心が落ち着く教会、好きなレストランの味、いつも買い物をするスーパーマーケット、ここを離れると思うと名残惜しい記憶ばかりです。プラハの建物、景色、食べ物、音、人々の雰囲気、その全ての経験が私の感性を大いに育んでくれました。
私は、もともと国際関係論や近現代の戦争史にも興味があったため、ヨーロッパでも戦争博物館や、かつての核シェルター、社会主義の時代のチェコの歴史を綴る場所に訪れ、研究活動をしていました。チェコの歴史を学んだことで、まちの見え方が大きく変わりました。観光地のキラキラとした面だけではなく、その裏にある歴史的、政治的な意味を考察するのも楽しかったです。また、古いものがそのままの状態で現在にも残っているため、当時と同じ空気感で歴史を身近に感じることもできました。留学先では、大学での学びもそうですが、自分で知りたい!と思ったことに躊躇せずに飛び込んでいって欲しいです。その学びの先にまた新しい感情が湧いてくるはずです。
自分のペースで、深呼吸を
一年の留学を経て、今の私から言えることとしては、必ずどんな形であれ、留学中に得られること、経験、刺激はたくさんあるということです。焦らず、気負いせず、自分のペースで大丈夫です。その上で、自身の留学目標をできるだけ具体的に、いつでも見えるところに書き留めてみてください。留学中は刺激や変化が多く、最も成長できる時期です。
一方で様々なものに揉まれ、自らの軸を見失いやすい時期でもあります。自分がここで何を成し遂げたいのかを意識しながら生活するのは、しないでいるよりも、ずっと成長できるはずです。留学期間はあっという間に過ぎていきます。かけがえのない経験を自らの手で掴みに行ってください。応援しています。
それでは! Hezky den! ヘスキーデン!
[文・写真]
渡辺 咲耶 わたなべ・さや 富山大学芸術文化学部芸術文化学科 美術・工芸コース 4年 在学中。
2024年9月から2025年7月に部局間交流協定校のプラハ美術工芸大学(チェコ共和国)へ留学。
[関連サイト]
【芸文について】国際交流・留学ページ
【キャンパスライフブログ】留学生の今日