2018.01.24
【学生の日々】GEIBUN9卒業制作紹介!文化マネジメントコース 田原 美幸
「南砺市五箇山地域における伝統野菜栽培再興の取り組み」
今回紹介するのは文化マネジメントコースの田原 美幸さん。
テーマは「南砺市五箇山地域における伝統野菜栽培再興の取り組み」です。
(「文化マネジメントコース」は平成27年度より「芸術文化キュレーションコース」へコース名が変更になりました。)
Q.研究の内容を教えてください。
A.1995年、五箇山の菅沼集落と相倉集落が白川郷五箇山の合掌造りの一部として世界遺産に登録されました。以降、観光地化が進むと同時に、住民達の生活意識が変化してきました。そのため、かつて行われていた生業、特に農林業は衰退しつつあります。また世界遺産の保全に関わる過去の報告書を参考にすると、世界遺産の価値を保持するためには、茅の確保と周囲の農村景観としての維持が重要であると述べています。このような状況の中、現在五箇山では、伝統野菜「五箇山ぼべら」の栽培とブランド化を目指す取り組みが注目されています。「五箇山ぼべら」とは、昔から合掌造りの屋根材として使用された後の茅である古茅を活用して栽培されるかぼちゃです。合掌の森再生協議会はこの「五箇山ぼべら」の栽培が、耕作放棄地の減少と農村景観の保全に貢献し、また古茅を活用して栽培するという特徴から、古茅の価値の上昇や新たな茅場の造成にも繋がると考え、「五箇山ぼべら」の再興を目指して様々な活動を実施しています。論文では、インタビューと実地調査により「五箇山ぼべら」の栽培の現状を明らかにします。そして現在の五箇山における課題に対して、この取り組みが果たし得る可能性を考察します。
Q.具体的にはどのような取り組みがあるのでしょうか?
A.合掌の森再生協議会という地域住民によって組織された団体が、五箇山の上平地域を中心に活動しています。この団体は、茅場の造成を主な目的としており、新たな古茅の活用方法を考える他、茅場を整備する活動を行なっています。この活動は地域住民だけではなく、中日本高速道路株式会社(NEXCO中日本)の社員や学生団体などの様々なボランティア団体と共に行います。合掌の森再生協議会が「五箇山ぼべら」に注目し始めたのは、2014年のことです。それ以降、「五箇山ぼべら」を加工した商品を開発し、販売しています。また今年度はイオンリテール株式会社と「五箇山ぼべら」の栽培における協定を結んだことによって、今後のブランド化における第一歩を踏み出しました。
Q.どうしてこのテーマについて研究しようと思ったのですか?
A.近年、伝統野菜を活用して地域活性化を目指す地域が増加しています。そしてそれら多くの事例から、伝統野菜にはその栽培から流通における過程で、地域の歴史、魅力、文化を地域外へ発信するに相応しいということが分かります。「五箇山ぼべら」においては、それだけではなく、その栽培が世界遺産の保全に繋がるという重要なストーリー性があります。私はこの活動がより多くの人に伝わって欲しいと思い、テーマとして選びました。
Q.初めて「五箇山ぼべら」という野菜を知ったのですが、どのような野菜ですか?
A.「五箇山ぼべら」は、昔は五箇山の特産品とも言えたかぼちゃで、「ボーボラ」「ボビラ」などと呼ばれていました。皮は深い緑色で、実は濃いオレンジ色をしており、ラグビーボールのような特徴的な形をしています。また、味については、収穫が早いと優しい甘味のほくほくとした食感になり、収穫が遅いと甘味が強くしっとりとした食感になることが特徴です。また「ぼべら」とは五箇山の方言でかぼちゃを意味する言葉です。その栽培方法も特徴的で、播種、定植の次に、古茅を畑に敷くという作業が行われます。畑に敷かれた古茅は、畑の水捌けや通気性を良くするだけでなく、土が原因で出来る傷を防ぐクッション材の役割も果たしてくれます。更に、収穫が終わった後、古茅を畑に敷きこむことで次の野菜を栽培する上での堆肥になります。これらは五箇山に古くから伝わる伝統的循環農法です。
Q.この研究で一番大変だったことは何ですか?
A.一番大変だったのは農作業です。正直、今まで経験したことがなかったので、腰が痛くなりました。作業の人数も少ないため、1000個近くの種をブラックポットに植える作業を4人で行いました。ポットから育った苗を植え替える作業も3人でしたので大変でした。世界遺産に登録されたと言っても、山に囲まれ、過疎化・少子高齢化の進むこの地域でこれからどうしていくかを考えると大変だと思いました。
Q.今後はどのように進めていきますか?
A.いろいろ調べてきた中で整理しきれていないことをもう一度文献で調べ、改めて来年からの課題や今年度の課題、やって良かったこと、ブランド化に向けてのインタビューをする予定です。
Q.特に注目して欲しい点は何ですか?
A.まだまだ認知度が低い野菜ですが、五箇山には「五箇山ぼべら」という伝統野菜があるということを皆に知って欲しいです。「五箇山ぼべら」が世界遺産の保全にどのような関わりを持っているのか、またそれに対して地域住民や合掌の森再生協議会がどのような活動を行なっているのかに注目して貰いたいです。
ありがとうございました。
[取材・写真・文・編集]
卒展キュレーター委員会 (2017年11月2日)