2016.05.09
【受験生へのメッセージ】「『手で考え、体でつくる』サスティナブルな建築を目指して」萩野 紀一郎
バラエティー溢れる芸術文化学部の教員が、受験生のみなさんに伝えたいこととは…。担当する授業の特色と研究の魅力、そして地域連携活動等をとおして見えてくる受験生へのメッセージ。
[教員]
萩野 紀一郎 はぎの・きいちろう 准教授
[担当コース]
建築デザインコース
[専門分野]
建築設計・保存・再生、インテリアデザイン
[研究テーマ]
「能登の土蔵、民家、高岡の町屋の保存・再生に関する具体的事例研究」
「土や木などの自然素材を用いたサスティナブル建築研究」
「教育の特色」
私は、建築や空間をデザインするには、「手で考え、体でつくる」感覚が重要だと強く思っています。
今の時代は様々な便利なツールが発達してますが、それらを操る以前に、手でスケッチを描き、模型を作り、何度も手直ししながら、時に何度も振出しに戻りながら、空間やかたちを生み出していくことが不可欠です。
またその過程で大切なことは、実際のスケール(大きさ)、素材、つくり方、ディテール(細部)、などをイメージすることです。最終的には、空想の建築や空間ではなく、実際の建築や空間をつくるのですから。
そこで建築デザインコースでは、スケッチや模型、さらには実際に小さな建物をつくることにも挑戦しています。
「研究の特色」
今日、解体と新築が繰り返される消費型社会から、既存の建築や空家を生かし、サスティナブル(持続可能)な社会への変換が求められ、既存建築や空間(ストック)の保存・再生・活用、および大都市一極集中から地方の再生、が重要な課題となっています。
その意味で、北陸には土蔵・民家・町屋がまだ比較的多く残っており、逆に様々な可能性を秘めており、現存する建築やそこでのくらしを、具体的に調査、記録し、再生・活用を探る研究に取り組んでいます。
同時に、その事例研究を発展させ、建築再生から、土や木・竹などの自然素材を用いたサスティナブルな建築やくらしに関する研究への展開にも取り組んでいます。
「地域連携の特色」
地方(ローカル)の再生と同時に、国際(グローバル)化が叫ばれています。この両者は別々ではなく、グローバル化すればするほど、確固たるローカルな視点が不可欠です。
東京出身の私も7年間のアメリカ生活を経て、はじめて日本の地方や伝統に向き合う必要性を感じ、能登へ移住し、土蔵修復や里山活動を行ってきました。
現在は、高岡市の吉久地区の町屋に学生が居住することを提案する設計プロジェクト、金屋町楽市プロジェクトなどに、学生とともに関わっています。逆に、能登や高岡での活動を世界に伝えるワークショップも企画中です。
是非、ローカルな視点をしっかり身に着け、グローバルへと巣立ってほしいと考えています。
活動助成、芸術文化振興基金(輪島土蔵文化研究会)/第5回ティファニー財団賞(輪島土蔵文化研究会)/木の建築賞(輪島土蔵文化研究会)/生物多様性アクション大賞(能登半島まるやま組協議会)/能登キャンパス構想推進協議会・コロンビア大学建築学科
能登の里山に半自力でつくった自宅。ここを住み開き、いきもの調査、地元の季節の食材を使ったワークショップ、あぜ豆やそれを使った醬油づくりなどの里山活動を行い、集落の民家やくらしの研究を行っています。
2007年の能登半島地震後、数年間、全国からの左官職人、高岡・金沢・東京・関西・アメリカからの大学生、地元の方々とともに輪島の土蔵修復活動に没頭しました。土蔵は、土、藁、竹など、すべて自然素材でできています。
2015年、Institut Francaisのヴィラ九条山(京都)に日本人初のアーティスト・イン・レジデントとして参加しました。京都市立芸大、京都建築専門学校の学生と竹を用いた仮設展示ギャラリーを作成しました。
「受験生へのメッセージ」
芸文の特徴は以下のふたつに集約されます。
ひとつは、比較的人数が少なく、生徒と教員が顔を突き合わせて学べる点です。
ふたつめは、建築デザインだけでなく、様々な芸術・工芸の分野の教員や学生とともに学べる点です。まさにものづくりの街、高岡の縮図のようなところです。
一方、上記ふたつの問題点として、外との接点や競争心の育成も求められます。そのために地域連携プロジェクトを始め、他大学との協働プロジェクトやワークショップも推進しています。
大学は、与えられたこと、指示されたことに取り組むのでなく、自ら問題を見出し、それに取り組んでいくという姿勢が大切です。大いにチャレンジしてください。